溶接ヒューム特化則とは?労基署調査を受けた静岡の鉄骨工場が解説【健康診断・フィットテスト・濃度測定】

静岡県焼津市で鉄骨加工・溶接工事を手がける大石ユニオン株式会社です。昨年末に労働基準監督署の調査を受けた経験を踏まえ、溶接ヒューム特化則への対応の重要性を改めて認識しました。半年ごとの健康診断、マスクのフィットテスト、濃度測定など、対応すべき項目は多岐にわたります。同じ鉄骨加工業に携わる皆様の参考になれば幸いです。
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大石ユニオン株式会社
静岡県焼津市で昭和41年創業以来、50年以上にわたり建築鉄骨の加工・組立・溶接工事を手がけてきました。CO2溶接とアーク手溶接を得意とし、年間約600トンの鉄骨梁を製作しています。労働基準監督署の調査経験を踏まえ、溶接ヒューム特化則への正しい対応方法を解説します。
溶接ヒューム特化則とは?2021年4月施行の新規制
溶接ヒューム特化則とは、特定化学物質障害予防規則の改正により、2021年4月1日から施行された溶接ヒュームに関する規制です。金属アーク溶接作業で発生する溶接ヒュームが、労働者の健康に深刻な影響を及ぼすことが明らかになり、特定化学物質として新たに指定されました。
溶接ヒュームが特定化学物質に指定された背景

溶接ヒュームとは、アーク溶接の熱により金属が蒸気となり、空気中で冷やされて微細な粒子になったものです。この粒子には塩基性酸化マンガンが含まれており、2017年に国際がん研究機構が発がん性物質グループ1に分類しました。長期間にわたる溶接ヒュームへのばく露により、神経機能障害やじん肺など、深刻な健康被害が多数報告されたことから、厚生労働省は規制を強化する判断を下しました。
金属アーク溶接が規制対象
特化則の規制対象となるのは、金属をアーク溶接する作業、アークを用いて金属を溶断する作業、ガウジングする作業などです。CO2溶接やアーク手溶接といった一般的な溶接方法も、この規制の対象となります。屋内作業場で継続してこれらの作業を行う場合、2022年3月31日までに溶接ヒュームの濃度測定を完了させることが義務付けられました。
労基署調査で確認される主な項目
労働基準監督署による調査では、溶接ヒューム特化則への対応状況が重点的に確認されます。施行から数年が経過した現在でも、対応が不十分な事業所が多く見られるため、調査が強化されています。
調査で重点的にチェックされる内容
労基署の調査では、溶接ヒュームの濃度測定の実施記録、特定化学物質健康診断の実施状況と記録保管、フィットテストの実施記録、作業主任者の選任と職務遂行状況、全体換気装置の設置と点検記録、床の清掃記録と構造確認、呼吸用保護具の選定と使用状況、健康診断結果の労基署への報告といった項目が確認されます。これらの記録が整備されていない場合、改善指導や是正勧告の対象となります。
未対応企業が多い現状
2021年4月の施行から期間が経過していますが、実際には多くの中小企業で対応が遅れています。特に濃度測定の実施、フィットテストの定期実施、記録の適切な保管といった項目で不備が指摘されるケースが目立ちます。労基署の調査が入る前に、自主的に対応を進めることが重要です。
対応が必要な主要項目
溶接ヒューム特化則に対応するためには、以下の項目について適切な措置を講じる必要があります。これらは義務付けられている基本的な内容ですが、実際に対応するには専門的な知識と相応の準備が必要です。
全体換気装置の設置
屋内作業場で金属アーク溶接作業を行う場合、全体換気装置による換気またはこれと同等以上の措置が義務付けられています。既存の換気扇では風量が不十分な場合が多く、作業環境測定士に相談して適切な換気装置を設置する必要があります。また、作業主任者による月1回以上の点検と記録の保管も義務となっています。
作業主任者の選任と資格取得
特定化学物質作業主任者の選任が必要です。選任する者は「特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習」を受講し、資格を取得しなければなりません。この作業主任者の職務は、労働者が溶接ヒュームを吸入しないよう作業方法を決定し指揮すること、全体換気装置などを月1回点検すること、保護具の使用状況を監視することです。
溶接ヒューム濃度測定
実施時期:作業方法を新たに採用または変更する時
測定方法:個人ばく露測定(作業者の呼吸域に測定器を装着)
基準値:マンガンとして0.05mg/㎥
呼吸用保護具の選定
選定基準:測定結果に応じた要求防護係数
種類:防じんマスク、電動ファン付き呼吸用保護具など
使用義務:屋内外問わず全ての金属アーク溶接作業
床の清掃と構造
床構造:水洗等により容易に掃除できる構造
清掃頻度:毎日1回以上
清掃方法:水洗またはHEPAフィルター付き真空掃除機
半年ごとの健康診断の実施
溶接ヒュームを取り扱う作業に常時従事する労働者に対して、特定化学物質健康診断の実施が義務付けられています。この健康診断は、雇入れまたは配置換えの際、およびその後6ヶ月以内ごとに1回実施する必要があります。
特定化学物質健康診断の内容
1次健診では、業務の経歴調査、溶接ヒュームによるせきやパーキンソン症候群様症状の既往歴の検査、せきやパーキンソン症候群様症状の有無の検査などが実施されます。1次健診の結果、他覚症状が認められる者で医師が必要と認めた場合は、2次健診として胸部理学的検査、胸部エックス線検査、肺機能検査、神経学的検査などが追加で実施されます。健康診断の結果は5年間保存し、特定化学物質健康診断結果報告書を労働基準監督署長に提出する必要があります。
じん肺健康診断との併用
金属アーク溶接作業に常時従事する場合、特定化学物質健康診断とは別に、じん肺法に基づくじん肺健康診断も実施する必要があります。両方の健康診断を同時に受診できる医療機関を選ぶことで、従業員の負担を軽減できます。健診費用は1人あたり約15,000円から20,000円程度が一般的です。
「参照:厚生労働省-金属アーク溶接等作業を継続して屋内作業場で行う皆さまへ」
マスクのフィットテストとは
フィットテストとは、呼吸用保護具が作業者の顔に適切に装着されていることを確認する検査です。面体を有する呼吸用保護具を使用させる場合、1年以内ごとに1回の実施が義務付けられています。
フィットテストの実施方法

フィットテストは、JIS T8150に定める方法またはこれと同等の方法により実施します。具体的には、マスクを装着した状態で専用の測定器を使用し、マスク内外の粒子濃度を測定して密着性を確認します。フィットファクターという数値が要求基準を上回っていれば合格となります。作業環境測定士などの専門家に依頼して実施することが一般的です。
年1回の定期実施が義務
フィットテストは年1回の実施が義務となっていますが、作業者が新しいマスクを使用する際や、顔の形状が変化した場合(体重の増減など)にも実施することが推奨されます。全従業員に対してフィットテストを実施し、それぞれに適したマスクのサイズと型番を記録しておくことが重要です。フィットテストの結果が基準を満たさない場合は、別のサイズや型のマスクで再度テストを行います。
溶接ヒューム濃度測定の実際
溶接ヒュームの濃度測定は、特化則対応の中でも特に重要な項目です。この測定結果に基づいて、換気装置の改善や呼吸用保護具の選定を行います。
個人ばく露測定の手順
溶接ヒュームの濃度測定は、個人ばく露測定という方法で実施します。作業者の呼吸域に試料採取機器を装着し、通常通りの溶接作業を行いながら、作業時間全体にわたって空気を採取します。測定は、ばく露される溶接ヒュームの量がほぼ均一と見込まれる作業ごとに、2人以上の労働者に対して行います。作業環境測定士などの専門家に依頼し、CO2溶接作業とアーク手溶接作業など、溶接方法ごとに測定を実施します。測定機器は作業者の襟元や胸ポケットに装着され、溶接作業の邪魔にならないよう配慮されます。
基準値と対応の判断
測定結果の基準値は、マンガンとして0.05mg/㎥です。測定結果が基準値を超過した場合、換気装置の風量増加などの措置を講じた後、再度測定を実施して効果を確認する必要があります。基準値を超える場合は、測定結果に応じた要求防護係数を満たす呼吸用保護具を選定し、労働者に使用させることが義務付けられています。
対応にかかる期間とコストの目安

溶接ヒューム特化則への対応には、相応の時間とコストがかかります。ここでは一般的な中小企業を想定した対応期間と費用の目安をご紹介します。
対応完了までの標準的なスケジュール
ゼロから対応を開始する場合、完了までには通常2ヶ月から3ヶ月程度を要します。まず作業環境測定士への相談と見積依頼を行い、溶接ヒューム濃度測定を実施します。測定結果が基準値を超える場合は換気装置の改善工事を行い、再測定で効果を確認します。並行して、作業主任者の講習受講(2日間程度)、健康診断の手配と実施、フィットテストの実施を進めます。記録管理システムの整備と運用マニュアルの作成も必要です。年末年始や繁忙期を避けて、計画的に進めることが重要です。
想定される費用内訳
従業員数や作業規模により異なりますが、従業員5名から10名程度の小規模事業所の場合、総額100万円から200万円程度の費用を見込む必要があります。主な内訳は、溶接ヒューム濃度測定が初回・再測定合わせて20万円から40万円、換気装置の設置または改善工事が50万円から100万円、作業主任者の技能講習受講費が1名あたり約2万円、従業員の健康診断費用が1人あたり約2万円、フィットテスト実施費用が1人あたり約1万円から1.5万円、呼吸用保護具の購入費用が1人あたり約2万円から3万円程度です。中小企業にとっては負担の大きい金額ですが、従業員の健康を守るための必要な投資といえます。
まとめ
溶接ヒューム特化則への対応は、鉄骨加工業を営む事業者にとって避けて通れない重要な法的義務です。半年ごとの健康診断、フィットテスト、濃度測定、作業主任者の選任など、義務付けられている項目は多岐にわたります。対応には相応の時間とコストがかかりますが、従業員の健康を守るための必要不可欠な投資です。
特に重要なのは、溶接ヒューム濃度測定を適切に実施し、その結果に基づいて換気装置の改善や呼吸用保護具の選定を行うことです。また、記録の整備と保管も非常に重要で、健康診断結果は5年間保存し、労基署への報告も忘れずに行う必要があります。
労働基準監督署の調査が入ってから慌てて対応するのではなく、自主的に計画を立てて進めることをお勧めします。当社も調査を経験し、対応の重要性を実感しました。同じ鉄骨加工業の皆様が、適切に対応を進められることを願っています。
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